90年代に『新世紀エヴァンゲリオン』の二次創作小説が大流行した理由

「インターネット老人会特集」のお題を与えられたものの、自分は何を書けばいいか、少々悩みました。自分は2ch文化やFlash全盛期の直撃世代ですが、これは記憶している人が大勢いるので改めて書くのも憚られる。やはり、自分の原体験を書くべきと思いました。そこで今回は、1990年代後半に社会現象を巻き起こしたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の、ネットを巡る昔話をしたいと思います。

【動画】シン・エヴァンゲリオン劇場版 特報
この記事はヤフで取りました:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180819-00008650-bunshun-life&p=3
 エヴァと言ったら、つい先日、新劇場版最終作となる『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の特報が公開され、2020年上映ということが大々的に報道されました。このスケジュール通り行くと、1995年のTVシリーズ開始以降、四半世紀もの間、庵野秀明監督の手のひらの上で踊らされ続けたことになります。なんて人生だ。

直撃した世代にとってエヴァは特別

 思えば1995年の秋。なんとなくテレビのチャンネルを回してたら、ちょうどTVシリーズの2話、初号機の暴走シーンを放送していて、「よく分からんがなんだこれ?」と思いつつ観たのが始まり。そこからドハマリして、97年3月公開の劇場版『シト新生』でテンション高まり、7月公開の『Air/まごころを、君に』でドン底に落とされました。

 10年の時を置き、2007年に始まった新劇場版『序』は当初期待していなかったものの、評判に釣られて観に行ったら傑作。続く2009年の『破』は公開初日の初回上映を礼服白ネクタイ着用の上観たら、上映終了後に劇場に拍手が巻き起こる大傑作。

 そして、2012年の『Q』上映終了後はスッキリしないモヤモヤ感を抱える。完結編の『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が出る前に、『シン・ゴジラ』が発表された時は「なんじゃこりゃ?」と思ったものですが、蓋を開けてみれば大傑作。満足はしたものの、時が経つにつれ、それでもやっぱりエヴァが観たいのじゃ……と思っていたところに、今回の上映決定がきました。

 ん、インターネット関係ない? あるんだよ、とっても。前置き長かったけど。

 あの時代に直撃した世代にとっては、エヴァは特別だということを強調したかったんですよ。今でもTwitter探せば、そういう人がたくさんいますよ。


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残酷な天使のテーゼ』がダウンロードできた

 ここから本題。

 エヴァの制作会社だったガイナックスは、割と早い時期に自社ホームページ(これも古い言葉だ)を持っていました。初期のエヴァの紹介ページでは、音質が悪いものの『残酷な天使のテーゼ』がダウンロードできて、映像はおろか音声データすら配信が珍しかった当時、これは結構衝撃的でした(MP3も無かったんですよ当時)。そしてガイナックスは、当時としては先進的なネットポリシーを持っていました。利用ガイドラインに従えば、エヴァの版権画像を自身のサイト内に掲載できるよう配布していたのです。

 このガイドラインは登録制を取っていて、登録されたサイトはリスト化され公開されていました。インターネット・アーカイブで拾ってきた当時のリストを集計したところ、1997年7月の『Air/まごころを、君に』公開までに登録されたサイト数は1,400を超えていました。これは画像使用を申請したサイトのみの数で、画像を使ってないサイトも多かったし、無登録で使用していたサイトもあったので、それらを含めるとエヴァ関連サイトは相当数あったと思います。

 現在でも一つのアニメジャンルで、1,000以上の個人サイトがあるのはそうそう無いことを思えば、この盛り上がりがいかに異常だったかが分かると思います。まあ、当時はイラスト・動画・小説投稿サイトなんて無かったせいもありますが。

今の4G通信の1000分の1以下のスピードですよ

 そういった個人運営のエヴァサイトの中でも、一番勢力が大きかったのが、二次創作小説。当時はエヴァFF(ファンフィクション)とか、SS(サイドストーリー、ショートストーリー)とか色々呼ばれていましたが、とりあえずここでは二次創作小説と呼びます。

 当時はネット回線も貧弱で、64kbpsのISDNが「高速」と言われていた時代。これ、今の4G通信の1000分の1以下のスピードですよ。そして貧弱なPCで誰でもできることと言えば、文字入力でした。こういった事情からも、エヴァの世界観やキャラクターを使った二次創作小説が、90年代後期のネット上では大変流行していました。今はそのほとんどが消滅し、時期的にインターネット・アーカイブに収録されていないものも多数あり、記憶に頼る部分が多いですが、それでも当時の隆盛ぶりは報道の中にも残っています。

 例えば、1998年9月24日の朝日新聞には、「『新世紀エヴァンゲリオン』など人気作の場合などは数万件のSSが展開されたといわれる」という記述があるし、1997年9月29日のAERA「中途半端が心地よい? 大人になれない30代ボーイズ・失欲」には、大手新聞社勤務の30歳既婚記者がエヴァの二次創作小説を書いている事が紹介されている。まあ色んな人達が、色んな話を書いておりました。

 面白いのは、その中から商業化した作品が出たとこです。今でこそ、ネット掲載小説が商業出版されたり、アニメ化されたりするのはよくありますが、当時は珍しいことで地方版ですが新聞記事にもなりました。商業化にあたって、エヴァ要素は削除されていますが、元がエヴァのキャラクターだけ使って後は完全オリジナルみたいな作品でしたので、名前変更くらいで済んだとか。

個人サイト内に設置された掲示板が主戦場に

 私はほぼ「読み専」でしたが、そういう界隈をうろついていて、同年代の中高生10人くらいでオフ会したりとか、いかにも90年代のネット文化っぽいことをしていました。そのうちの何人かは今でもゆるい繋がりがあります。

 当時のネットも殺伐とした部分があって、特に個人サイト内に設置された掲示板がその主戦場になっていました。怪文書の書き込みはよく見かけましたし、時たまオウム真理教のネット部隊が、警察批判を書き込んだりしていました。2chSNSもなかった時代で、個人サイト上で殴り合いが行われていた訳ですが、プロバイダ責任法もなかった時代だからこその光景だったのかもしれません。

 私がネット上での活動を本格化したのは2010年代に入ってからですが、根本の部分は90年代に作られたと確信しています。苦い思い出もありますが、概ね楽しいものでしたし、この経験がなければ、今の仕事はやってなかったでしょう。そのくらい人格形成に影響があったと思います。

 改めて書いてみると、同じネットでも20年前と今とじゃ全然状況が違っていて、つくづく老人化したなあ、と感じさせられました。もし、これを若い人が読んで、昔のネットのアレさに引いていたら。大丈夫。君もすぐに老人になるから。

 しかし、これほど隆盛した90年代ネットのエヴァ界隈も、今はもうほとんど見ることはできません。電子の彼方に消えてしまいました。今のネット上の流行もまた、同じ運命を辿ってしまうのでしょうか。

 あ、それと念の為。『破』の上映に礼服で行ったのは、知人の結婚式が重なっていたからです。ほんとだよ。