済美・山口の184球は「熱投」か。美化すべきでない異常な球数、問うべき投手起用のあり方

第100回全国高校野球選手権記念大会(兵庫県西宮市・阪神甲子園球場)で12日、済美(愛媛)と星稜(石川)が延長13回の激闘を演じた。史上初の逆転サヨナラ満塁本塁打で幕を閉じたこの試合。済美はエース・山口直哉(3年)がたった一人で投げぬいた。

【図表】第100回全国高校野球選手権記念大会<トーナメント表>

この記事はヤフで取りました:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180813-00010001-baseballc-base

高校生は体力・技術が未熟。エースに頼り切るべきではない

 決して「熱投」ではない。

 第8日目の第3試合、済美のエース・山口直哉投手は延長13回を一人で投げ切った。球数は184球に達していた。

 高校野球の報道では、こうしたピッチングをたびたび「熱投」「力投」とたたえる。だが、プロ野球のローテーションピッチャーでも100球を目安(多くても150まで)に交代するというのに、体力や技術が未熟な高校生がこれほどの投球をしていいのだろうか。

「延長戦に入って球速が持ち直して、球のキレも出てきていた。もちろん、他の投手を準備させていましたし、(山口本人には)何かあったらすぐに言って来いよと、『行けるか?大丈夫か?』と話していました。山口が県大会からずっと一人で投げてきたので、ここで交代させると『監督は勝負を諦めたのか』という影響も考えられましたので、その中で本人が気力で投げてくれたと思います」

 済美の中矢太監督は試合後にそう話している。

 愛媛大会から山口直哉が一人で投げてきた。だから、交代させられない。指揮官の言葉から事情を察することができるが、投手の起用法やマネジメント能力を問わざるを得ない。
 
 延長戦に入ってブルペンで準備を始めた三塁手兼任の池内優一によると、「県大会1、2回戦で僕が投げるかもしれなかったのですが、試合がコールドにならなくて、投げる機会がなかった」そうだ。

 つまり、中矢監督は地方大会からエース一人に頼り切るという起用法をとってきた。そのため、常識を超える球数に達しても投手を交代させるという選択肢を持たなかったのではないか。

 池内は山口を慮る。

「山口は死球を受けていましたし、アップアップなところもあった。だから、出番があるかもしれないと、いつでもいけるように準備していた。ただ、山口は延長に入って疲れを見せなかったです。本当は疲れていたのかもしれませんが、副キャプテンとしての気持ちもあって、頑張ってくれていた」

 高校野球は部活動だ。池内の言葉にあるように、エースであり副キャプテンでもある山口は過剰に頑張ってしまう立場に置かれている。しかも、舞台は高校球児の憧れ「甲子園」なのだ。

 そういう状況に山口が置かれていて、「今まであいつで勝ってきた」とチームの命運を背負わされるのはあまりにも酷である。

下着のHP:https://www.qoo10.jp/shop/c906138

選手からの降板申し出は不可能

 中矢監督に、どういう状況であれば山口を交代させるのか尋ねた。

 「足がつったなど、そういうアクシデントがあれば交代させると思います」

 中矢監督は「いけるか、大丈夫か」と何度も聞いたと語っていた。それらを加味すると、この試合で山口直が降板する可能性として考えられたのは、本人が投げられないと答えるか、壊れるまで投げてしまったときである。

 前者に関してはっきり言えることは、プレーする選手の方から降板を申し出るということはほとんど不可能だ。

 かつて、甲子園の舞台で右肩に激痛がありながら登板した投手を取材したことがある。彼は指導者との悲痛なやりとりについて語ってくれた。

 「いつも聞かれるのは『いけるか?』です。でも、そうなると『いけます』としか言えないですよね。それが選手の心理だと思います」

 実際、山口にも聞いた。「いけるか?」と聞かれて、断れるのか、と。

 山口は苦笑していった。

「断れないです」

 この試合が劇的な試合であったことは間違いない。そして、その大激戦を勝ったのは済美だった。

 しかし、本当に良い選択とは何か。高校球児の健康を最優先せず、勝利を中心に選択を決めるのは育成年代の在り方として正しいのだろうか。

 一人の人間が180球以上を投じるということは決して良いことではない。少なくとも「熱投」「力投」と表現している場合ではない。